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『ふたり/コクリコ坂・父と子の300日戦争~宮崎駿×宮崎吾朗~』の感想

NHK ふたり/コクリコ坂・父と子の300日戦争~宮崎 駿×宮崎吾朗~ [DVD]

『金曜ロードSHOW!』で宮崎吾朗監督作品『コクリコ坂から』が放送される。それに合わせて公開当時にNHKで放送された『ふたり/コクリコ坂・父と子の300日戦争~宮崎駿×宮崎吾朗~』を見返した。

 

本番組はタイトルからも分かる通り、『コクリコ坂から』の製作現場を追ったドキュメンタリー番組。冒頭、宮崎吾郎とスタッフが作業をしている現場に特に用もないのに宮崎駿がやってきて、スタッフに話しかけたり、壁に貼ってある吾郎監督たちの描いた絵を見ながら白髪頭を掻き毟ったり、作業をするスタッフの周りを何か言いたげに歩き回ったりする。その時、宮崎駿は宮崎吾朗に話しかけないどころか近づきもしない。その後、駿監督は徐に近くにある金平糖を手に取りスタッフに配り始める。当然駿監督は吾郎監督にも「はい、吾郎」と金平糖を配り、吾郎監督も口にタバコを加えながら手を差し出して受け取るのだが、何処かぎこちない。駿監督側は何事もないように金平糖を渡しているように見えて「これから吾郎にも金平糖を渡すために話しかけるぞ」と、吾郎監督側は「これから父親が金平糖を渡しに来るから、出来るだけ普通の感じで受け取るぞ」とでも脳内ナレーションをしてるのではないか、と想像してしまう。何というか周りが気を使わなきゃいけないような空気感が漂っており、「金平糖を渡す」という何気ないシーンもまるでコミュニケーションのキッカケを作るためのイベントのようにも見えるのだ。本作の冒頭は、そんな「微妙な親子関係」を表すようなシーンから始まる。

 

 

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『コクリコ坂から』は企画・脚本を宮崎駿監督が務めているが、監督は宮崎吾朗が務めている。そのため、本来は脚本を書き終えた段階で宮崎駿の仕事は終わっており、その後の作業に口を出す筋合いはない。しかし宮崎駿は宮崎吾朗の作業場に来てガンガン口を挟み、挙げ句の果てに吾郎監督がスタッフたちと作った壁に貼ってあった絵を外せなどと命じ、吾郎監督に絵コンテを見せろと迫る。吾郎監督はそれを断り、撮影スタッフに「手取り足取り教えてもらってやった方が出来そうだけど、やっぱりそれじゃできない」という趣旨の心情を打ち明ける。吾郎監督は偉大な父親の力を借りることなく、自分の力で作品を完成させようとする。

 

しかし吾郎監督は絵コンテをチェックした鈴木敏夫プロデューサーに「このままでは公開できない」と告げられてしまう。吾郎監督はどこか泣きそうな顔で「自分でも薄々分かってた」と語り、鈴木敏夫の要望通りヒロインである海を魅力あるキャラクターに練り直そうとする。海は幼い頃に父親を亡くしており、自分ではそれを受け入れていれているつもりでも、そのことによって何処か影を落としている暗いキャラクターとして設定されていた。吾郎監督は鈴木敏夫のいう「ヒロインらしいキャラクター」にするために、カットを間引くことでテンポを上げたり、セリフのスピードを上げたりするが、どうも確信が持てない。

 

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※宮崎駿監督の送ってきたイラストのシーン

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※宮崎駿監督発案の起きて直ぐに布団を畳むシーン

これが物語であるなら父親である宮崎駿監督かさりげなくアドバイスをするとか、一緒に仕事をしているスタッフの何気ない一言によって吾郎監督が打開策を閃くというのが王道だ。しかしこれは物語ではなく、現実であり、吾郎監督のもとには宮崎駿から「答え」ともいえる「大股で前のめりで学校に登校する海」の一枚のイラストが届く。この一枚のイラストによって現場の作業は一気に動き出すのだが、数分前に「父親の力を借りずに、自分の力でやりたい」という吾郎監督の想いを聞いていた自分としては何とも言えない複雑な気持ちにさせられる。更に宮崎駿は「映画の冒頭で海が起きて直ぐに布団を畳むシーンを入れれば、彼女の溌剌さが際立つ」「このシーンを入れるようにプロデューサー命令として鈴木さんから伝えて欲しい」と言い始める。吾郎監督は「布団は畳まない、横で妹が寝ているから」と否定見解を出すが、鈴木さんの説得を突っぱねることはできなかった。

 

 

次のシーン、「吾郎さんは開き直っていた。映画をよくするために意地もプライドもかなぐり捨てた。」というナレーションと1人無言で絵コンテをきる吾郎監督の映像が流れる。このシーンからは「絶対的な父親の力に頼ることなく自分の力だけで道を切り開こうとした息子が、結局自分の力では道を切り開くことはできず、最終的に偉大な父親とプロデューサーの力に飲み込まれざるを得なかった」という哀愁を感じさせられ、努力が中々結果に実らない不遇のアイドルを応援したいというような、切ない気持ちにさせられた。

 

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※宮崎吾朗監督が入れた駿が海を抱きとめるシーン

ただ吾郎監督も宮崎駿と鈴木敏夫という巨大な力に飲み込まれてばかりではない。ラストシーン、駿監督の脚本には「俊が海に手を貸す」とだけ記されたシーンに、「俊が海を抱きとめる」というシーンを加えた。これは吾郎監督なりにキャラクターの気持ちを考えた、親父心だったという。ドキュメンタリー番組の構成上、そういう流れになってるだけかもしれないが、1シーンでも父親を超えていこうとする吾郎監督の姿をみると胸が熱くなる。それどころか、当該シーンでは映画の流れ関係なく「あー、ここは宮崎駿の脚本にはない宮崎吾朗のオリジナルアイデアなんだよな…」と嬉しくて感動してしまいそうなレベルだ。

 

番組は『コクリコ坂から』の試写会シーンで終わる。ネット上では宮崎駿が『ゲド戦記』を「気持ちで映画 使っちゃいけない」「1本作れたからいいじゃんね それでもうやめた方がいい」と酷評したことばかりが拡散され続けている。一方で『コクリコ坂から』を観終わった宮崎駿監督は「少しは脅かせって こっちを」と厳しい言葉を吐くが、その直後にカメラに向かって一瞬笑って見せる。もしかしたら成長した息子の姿が嬉しかったのかもしれない。宮崎吾朗監督は父親の言葉を聞き、「クソッ 死ぬなよ」と笑う。ここからは父親が死ぬ前に、父親を脅かすことができるだけの映画を作って見せるという意思表示を感じる。

 

 

宮崎吾朗監督の映画作品は『ゲド戦記』は酷評され、『コクリコ坂から』は「悪い映画ではない」「結構好き」「隠れた名作感はある」と評判は悪くないが、特別評価をされた訳でもない。それ以降はテレビアニメの監督を務めるなど、映画作品は公開していなが、いつか父親を脅かすような作品を作って欲しいと願う。

 

(C)2011 高橋千鶴・佐山哲郎・GNDHDDT

 

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