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原作と映画「同時完結」成し遂げた『暗殺教室』の背景にある松井優征の「人気漫画の実写映画版」への考え方

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2020年3月30日、フジテレビで『暗殺教室 卒業編』が地上波初放送される。

 

  • 原作ファンからの「不安」

暗殺教室 1 (ジャンプコミックス)

『暗殺教室』は2012年から2016年まで『週刊少年ジャンプ』で連載された作品。コミックス累計発行部数は2400万部を超え、実写映画化だけでなくテレビアニメ化もされた。

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本作の実写映画化が発表されたときのネットでの反応はあまりポジティブなものではなかった。まず本作の主人公である「殺せんせー」はマッハ20で空を飛ぶ謎の超生物、もう1人の主人公である「潮田渚」も髪は水色で女の子のような容姿と両者フィクションラインが高い。そのため実写化のハードルは高いとされた。またキャラクターのメインビジュアルが発表される度にも悪い意味で話題を呼んだ。例えばカルマ役の菅田将暉は原作のビジュアルが髪の毛を下げているのに対して、髪の毛を上げる設定に変更された。これは当時、菅田将暉の髪の毛が短かった故の変更だったというが、原作ファンからはネガティブに映った。(ちなみに原作では大人になることで前髪を上げる演出がされるが、映画では逆に前髪を下げることで「大人になった」ということが演出されている)当時の菅田将暉は現在ほどの知名度がなかったことも加わり、ネット上では「このカルマは赤点」とネタにされた。

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また橋本環奈演じる律も、何故か前髪を中心寄せる「謎の三角髪型」に変更されていたことが叩かれた。この髪型変更は未だに謎である。

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更に本作ではビッチ先生に元KARAの知英がキャスティングされてことも、「日本語と英語も含めて10カ国の外国語を操る語学力を持つキャラクターに、何故日本語がカタコトな彼女をキャスティングしたのか?」という疑問の声が上がった。予告編では本編の中でも特にカタコトな「おっぱいに見立てて茶を飲むな!」というセリフが使われていたのも火に油を注ぐ形となった。他にも「主演がHey!Say!JUMPの山田涼介」「原作には登場しないオリジナルキャラクターが追加される」など原作ファンを不安にさせる要素は多かった。しかし実際に公開された『暗殺教室』の実写映画版は原作ファンからの評判も悪くなく、興行収入も27.7億円のヒットを記録した。1作目のヒットから翌年完結編となる『暗殺教室 卒業編』も公開され、こちらも興行収入35.1億円のヒットとなった。2015年は『寄生獣』『進撃の巨人』と興行的な期待に応えられない人気コミックスの実写映画版が目立ったが、本作は興行面でも批評面でも一定の評価を収める形となった。

 

 

  • 原作者とキャッチボール

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公開前の不安を覆す成功を収めた実写映画版『暗殺教室』だったが、本作の造りは人気コミックスの実写映画版にありがちな「基本原作からのダイジェストで、時系列を入れ替えながら所々原作にはない映画オリジナル要素で補う」というモノ。ただし本作が他の人気コミックスの実写映画版と大きく異なった点は、映画制作陣と原作者がシッカリとキャッチボールした形跡が作品から見られることだ。その代表例は映画でのカエデの描き方だ。このカエデというキャラクターは触手持ちという設定だが、この事実が原作で明かされたのは映画公開1ヶ月前のタイミングだった。つまり原作にこの事実が明かされたときに既に映画は完成していた。しかし公開された映画を観ると、原作でも明かされたばかりだったカエデの触手がラストにサプライズ的に登場した。これは原作ファンから「あっ!」思わせ、原作を知らない人間には「え!?」と思わせる見事な塩梅の演出だった。この他にもカエデのシーンは「お姉ちゃんの話が出てきたときの表情」や「シロ絡みのエピソード」など、「彼女が触手持ち」であることを前提とした演出が映画全体でなされていた。これは映画製作陣と原作者が事前にキャッチボールを取っていた何よりの証である。原作者の松井優征は人気コミックスの実写映画化を以下のように語る。

自分が大好きな漫画の実写化を映画館で見たとき、「原作とストーリーが違ってないか」とか、「映画スタッフは、原作者の言いたかったことを正しく理解しているのか」とか、何か審査員のような窮屈な気持ちで見ていることに気付いたんです。

<出典:『暗殺教室 イラストファンブック 卒業アルバムの時間』/松井優征/集英社>

松井優征先生は今まで自分が観てきた人気コミックスの実写映画版の経験から、原作ファンをガッカリさせたくないと想い、映画製作陣と積極的にコミュニケーションを取り、映画を製作していたと語っている。

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その点を踏まえれば「殺せんせー」の声優が「嵐」の二宮和也だったことも違った見え方をする。何故なら映画の1作目が公開された段階では「殺せんせーは人間だった」ことは原作では明かされていなかった。そのため公開当時は「別にアニメ版の声優と同じで良かったのでは?」という声もあった。ただ原作で「殺せんせーは人間だった」という過去が明かさる過去編が始まり、人間時の「殺せんせー」が登場したときに散りばめられていた点と点が一本の線となる快感を味わった。要は「殺せんせー」の声優が「嵐」の二宮和也だったのは、今後原作で過去編のエピソードが描かれることを踏まえた上でのキャスティングだったのだ。二宮和也のキャスティングは映画のエンドクレジットで明かされるサプライズとなっていたが、原作ファンはその後再びサプライズを味わえる形となっていたのだ。松井優征先生の作品は『暗殺教室』だけでなく、前作の『魔人探偵脳噛ネウロ』のときから「伏線の張り方と回収」が高く評価されていたが、その伏線術は実写映画の内容、そしてキャスティングにまで引き継がれていたのだ。

 

 

  • 原作と映画が「同時完結」

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また本作の原作者と映画製作陣のキャッチボールは「原作と映画の同時完結」という前代未聞のパフォーマンスまで見せた。なんと原作の最終回が掲載された『週刊少年ジャンプ』が発売された6日後に、実写映画版の完結編『暗殺教室 卒業編』が公開されたのだ。この展開について松井優征先生は以下のように語る。

『暗殺教室』っていう作品は、連載が始まる前からほぼ全部のストーリーを考えていて。特にエンディングは、これじゃないといけないっていうのが決まっていたので、映画オリジナルのエンディングを用意してしまうと伝えたいことが伝わらないと思った

映画「暗殺教室」に松井優征が太鼓判「これじゃないとってラストがあった」 - コミックナタリー

原作者は「同時完結」を実現させるために予め映画製作陣に原作の今後の展開や登場するキャラクターなどのデザインを提供していたという。その結果、「原作と同じラストを最終回が掲載されたジャンプの発売中に劇場版で観ることができる」という前代未聞の偉業を成し遂げた。この偉業は原作と映画のラストを相乗効果で盛り上げることに成功しており、メディアミックスの成功例の一つとなったまろう。欲を言えばコミック最終巻の発売とアニメの最終回も同時展開ができれば良かったのにとは感じるが…

 

 

  • 最後に…

メディアミックスの観点からいえば映画1作目の公開日3ヶ月前からテレビアニメが放送されていたのも、作品の知名度を高める意味でプラスだった。これはアニメと映画を手掛けたフジテレビの戦略の勝利だろう。ところで『暗殺教室 卒業編』の地上波初放送が遅れたのは、やはり成宮和成が「薬を打ちまくって怪物化する役」を演じているからだろうか…

 

  • 関連記事 

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松井優征先生が『暗殺教室』のメディアミックスに積極的に関わろうと思った理由は、前作『魔人探偵脳噛ネウロ』のアニメ化失敗が背景にある。そこら辺を詳しく解説したエントリーもあるので、興味がある人は是非読んで欲しい。

 

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