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受験から逃げ、目的もなく入った農業高校で伝説へ/『銀の匙 Silver Spoon』最終15巻ネタバレ感想

銀の匙 Silver Spoon (15) (少年サンデーコミックス)

荒川弘先生の『銀の匙』を全巻読破した。

 

  • 休載続き、完結へ

銀の匙 Silver Spoon コミック 1-14巻 セット

『銀の匙』は『週刊少年サンデー』で2011年から連載された、北海道の農業高等学校を舞台とした学園漫画。小学館の漫画の中では最速となる第4巻で初版が100万部を突破して、累計発行部数は1500万部を超えるヒット作品。テレビアニメ化や実写映画化もされた。

一方で本作は原作者が他社・他誌で複数の連載を抱えていたことや、連載中に第二子・第三子を出産したことで休載頻度が高かった。また2014年からは家族の療養のサポートも加わり、不定期連載の状態が続き、2019年に1年5ヶ月ぶりに連載を再開した本作は「あと4話で完結する」ということを発表した。

自分は本作を連載初期から読んでいたが、不定期連載になってからは作品から離れていた。そのためこの報道をみたときは、「強引に作品を畳んだのではいか?」「その結果、中途半端な終わり方になっているのではないか?」という疑念を抱いた。また本作は「春の巻」「夏の巻」「秋の巻」「冬の巻」と高校1年目の生活を四季を通して丁寧に描いていたのにも関わらず、「冬の巻」の後に始まったのは「四季の巻」。正直「高校2・3年目の生活の演出は雑なのでは!?」と不安に思った。ただ完結した機に全巻を読破してみると、全くそんなことはなかったし、コミックスで通して読めば「不定期連載だった」という事実も全く気にならなかった。

 

以下ネタバレ

 

 

  • 「逃げた先での経験」を肯定

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<出典:荒川弘/小学館>

本作は札幌の私立中学に通うも、学力競争や高圧的な父親によって「勉強ノイローゼ」になった主人公・八軒勇吾が中学の恩師白石の薦めで進学した寮制の大蝦夷農業高等学校(通称・エゾノー)での学園生活を描く漫画。「自分で飼育した豚をベーコンにして食べる」「校内で穫れた食材を使った手作りピザを振る舞う」など、「学園漫画あるあるの謎に権力を持ち、生徒から一目置かれている生徒会」と一緒で「盛っている」と分かっていながらも、ついつい農業高校に憧れてしまうような「明るいエピソード」が物語の前半部分では描かれる。一方で中盤になると「クラスメイトの家が借金を返せず離農し、学校を退学する」など「中学生にはどうすることもできない、農家の残酷なエピソード」も描かれる。

八軒は進学コースから農業高校に「逃げてきた」という負い目から、中々自分に自信を持ってなかったが、高校での様々な経験を通すことで人間として成長していく。個人的には校長からの「逃げてきたことに負い目はあっても、その逃げた先で起こった事、そこで出会った人… それらはどうでしたか?否定するものでしたか?」という問いに、八軒が「農業高校に進学してからのエピソード」を振り返り、「前に進むキッカケ」を得るシーンは胸に刺さった。やはり人生において「逃げた」かどうかは別として、何となく「自分はここでこれをやっていていいのか?」という負い目を感じるときがある。多分はそれはその場所が「失敗してきた場所」だったり、「実年齢と見合っていない場所」だったりするものだと思う。そうすると最初の「負い目」から、何か「プラス」のことがあっても全体として中々「プラス」に持っていくことは難しい。だから常に何となく「マイナス状態」が続き、負のスパイラルに陥ってしまう。ただそういう負の感情に押しつぶされそうになったときに、「そこであった経験を肯定することができる」というのは「人として強い」のだろうなと感じた。

 

 

  • 父親との確執

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<出典:荒川弘/小学館>

本作では「父親との確執」が作品全体の軸になっていると感じる。八軒が「勉強ノイローゼ」となったのも、父親の「学生の本分は学業である」という考えをプレッシャーに感じた側面が大きい。父親は八軒が農業高校に進学したこともよく思っておらず、「自分より勉強ができない生徒が集まる農業高校に居ることで安心感があるのではないか?」というような問いを八軒に突きつけ追い詰めていく。ただ物語を最後まで読んでいくと、この父親は別に「農業高校のような偏差値が低い高校に進学した八軒」を否定していたのではなく、「中学の担任から薦められたという理由で、自分の考えも持たず逃げるように農業高校へ進学した八軒」を否定していたことが明らかになる。つまり「農業高校」に進学したという「結果」を否定していたのではなく、「農業高校」に進学した「過程」を否定していたのだ。そのため八軒が「自分の考えを持ち、自分の意見を言い出す」ようになってからは、「本気には本気で返す」と八軒への評価を改める。そして八軒が「農業系の大学に進学にする理由」に「賛成だ」と即答するシーン、八軒の卒業式に出席して我が子を肯定するシーン、ヒロインの前で八軒を「一人前だ」と明言するシーンは熱い。親子関係としては微妙な関係のままだが、「投資」な話を通して、一人前の人間同士の「やり取り」をするシーンも感動的だった。

物語前半では怖いイメージしかない「堅物キャラ」だったが、中盤からは「八軒の周りでヤグザと噂されるネタキャラ」という面を見せ始め、最後は「美味しいモノを食べたときのオーバーな反応」「孫の要望に本気で応えようとする」など「登場当初とのギャップ萌え」をするキャラクターとなっていた。個人的に本作の中で一番好きなキャラだ。

 

 

  • 八軒、伝説へ

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<出典:荒川弘/小学館>

八軒はエゾノーを卒業した。彼は高校在学中から起業をして、大学進学後も起業人として活躍した。そのため八軒はエゾノーで「語り継がれる伝説の生徒」という扱いになっている。当たり前だ。彼は受験から逃げ、目的もなく農業高校に入った、謂わば「異分子」だった。ただ「異分子」だったからこそ、エゾノーに新たな風を起こした。その風は同世代の仲間たちだけでなく、その下の世代の生徒たちにも強い影響を与えるモノだった。

 

  • 最後に…

休載が続き、連載当初に比べるとあまり話題にならなくなってしまった作品だが、見事な完結を迎えていた。最後に全巻一気読みした感想を書くと、「携帯電話」から「スマホ」にシェア率が逆転し始めた時期の学園漫画を読むのは色々な意味で辛いなと感じた。1話目と最終話の対比が「八軒の成長」だけでなく、「携帯電話」から「スマホ」というのも連載期間の長期化による、時代の変化の結果なのだろう。

 

銀の匙 Silver Spoon (15) (少年サンデーコミックス)

銀の匙 Silver Spoon (15) (少年サンデーコミックス)

  • 作者:荒川 弘
  • 発売日: 2020/02/18
  • メディア: コミック
 

 

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