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【森友・加計学園問題】日本アカデミー最優秀作品賞を受賞した安倍政権批判映画『新聞記者』のアレコレ

新聞記者

今年の日本アカデミー最優秀作品賞に選ばれたのは東京新聞の望月衣塑子記者の著書を原案に森友・加計学園問題など安倍政権に関する一連の疑惑を連想させる政治映画『新聞記者』だった。本作は実に奇妙な作品でもある。現政権を批判的に描く作品は世界的にも珍しいというが、本作はあくまでも現政権の疑惑をモチーフにしているだけで物語はフィクションという体裁を取っている。モリカケ疑惑等の政治的評価は未だ定まっていないため、当然といえば当然である。その割には、実際に起きたことを結構ストレートに描いているシーンも多い。そのため本作を「攻めている」とみるか、「中途半端」とみるかは人それぞれだろう。ただやはり日本で、ここまでストレートに政権批判をする政治映画を単館ではなく、全国143館という中規模で商業映画として公開するケースは珍しい。松坂桃李、本田翼など世間の認知度が高い役者がキャスティングされていることも評価ポイントなのだろう。そのような「挑戦心」や「良くも悪くも物議を巻き起こした」ことなどが評価され、今年の一本としてアカデミー最優秀作品賞に選ばれたのではないかと感じる。

 

 

  • 賛否割れた作品評価

vdata.nikkei.com

一方で本作は賛否が大きく割れている作品だ。その賛否の割れ方は2パターンある。まず賛否が割れる1パターン目は「現政権を支持する層としない層」によるものだ。現政権を支持する層にはモリカケ疑惑等を「マスコミや野党による印象操作」と考える者も少なくない。そのため、モリカケ疑惑等を本作のように描く作品は面白くないと感じる層が一定数存在する。2パターン目は「政治的スタンスには共感するが、映画としてダメ」とみるか、「映画としてダメでも、本作のような映画が作られた意義を考えるべき」とみるかだ。

 

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否定派の中でも特に評判が悪いのは「内調」の描き方だ。暗い部屋で電気もつけずにスーツを着た無表情の官僚がパソコンに向き合ってカタカタとキーボードを連打する姿は「画面を暗くすることで、闇を表現している」という演出の意図なのだろうが、「ステレオタイプ」「幼稚」とみる者も少なくない。特に『踊る大捜査線』シリーズに見られた「暗い部屋で電気をつけずに丸いテーブルを囲みながら警察庁トップが隠蔽の話し合いをしている」等の描写を批判していた映画ファンからの否定意見が目立つ。個人的にはこの手の演出はそこまで嫌いとかではないのだが、『踊る』のこの手の演出を貶していた人が本作を褒めているのを見ると「政治的スタンスが一致すれば、作品のクオリティが低くてもOKなのか?」というモヤモヤを感じざるを得ない。

 

以下ネタバレ

 

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また本作では問題となる医療系新設大学は「政府が生物兵器開発に転用しうる研究施設として構想していた」ことが明らかになる。これは一部で噂された加計学園新設理由の憶測の一つである。当然この説に関しては加計学園に関する疑惑を問題視する層からも「流石にそれはない」という扱いを受けており、いわば都市伝説のような立ち位置だ。個人的には「映画なのだから、これくらい荒唐無稽な展開のが盛り上がる」と思ったが、本作のように現実世界の疑惑をモチーフにしながら、ラストでフィクションラインの高い説を持ってくることに拒否感を示す層も少なくなかったようだ。ただし、本作のプロデューサーの河村光庸さんは以下のように語る。

加計学園をめぐる騒動の中で、獣医学部と生物兵器の話が出ていましたが、それもこの映画のモチーフになっています。脚本を作る段階では、そういう話は荒唐無稽と思われるのではないかという声もありましたが、私はそう思っていません。

権力と闘う女性記者を描いた映画『新聞記者』の製作者に安倍政権への思いを聞いた(篠田博之) - 個人 - Yahoo!ニュース

少なくともプロデューサーは「荒唐無稽な話」にしたつもりはないようだ。

 

他にも「新聞を批判的に描くときは『毎朝新聞』という架空の新聞を使うのに、ラストは『朝日新聞』『毎日新聞』『読売新聞』を持ち上げる描写を入れたのは、新聞各社への忖度」などの批判が挙がった。一方でこれらの否定意見を踏まえても、「本作が最優秀作品賞に選ばれた意義を考えろ」と主張する者も少なくない。ここら辺の評価は映画に何を求めているかによって変わるものなので、平行線を辿るだけなのだろう。

 

 

  • 作品評価以外でも物議

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本作は純粋な作品評価以外でも様々な物議が起こった。しかしその大半は本作を称賛する者も、否定する者も「根拠のない意見」である場合が多い。例えば本作のアカデミー最優秀作品賞受賞において「こんな誰も知らない映画が何故…」または「宣伝が少なくて、殆どの人が知らない映画が受賞して喜ばしい」という、二つの意味の文脈で「新聞記者 知らない」というワードが話題になった。ただ『新聞記者』という映画の認知度が同じく最優秀作賞にノミネートされていた『閉鎖病棟―それぞれの朝―』『蜜蜂と遠雷』と比較してどの程度低かったかは定かではない。「宣伝が少なかった」という声に対しても、当然「バラエティで政権批判の映画を扱いたくなかった」「報道番組では参院選期間と重なったため、安倍政権にマイナスになるような映画の宣伝はできなかった」という背景もあるだろうが、純粋にこの規模の映画の宣伝が普段どの程度テレビで行われているかという視点も忘れてはいけない。ちなみにTBSテレビの情報番組『王様のブランチ』では特集コーナーこそなかったが、ランキング発表のときはそこそこ時間を割いて作品紹介をしていた。

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また「こんな興行収入が低い映画が…」や「こんな左翼のプロパガンダ映画を受賞させるとか、日本アカデミー賞は反日」とする声もみたが、本作の興行収入は5.5億円と公開規模を考えればヒット作品。スクリーンアベレージも高い。逆に『閉鎖病棟―それぞれの朝―』『蜜蜂と遠雷』の方が公開規模に対して興行的にはヒットしていないといえる。その上、2012年には興行収入2.69億円の『桐島、部活やめるってよ』が受賞しているので、今年だけ異常に興行収入が低い作品が受賞したという訳ではない。また2014年には「特攻美化」と批判された百田尚樹原作のベストセラー小説を実写映画化した『永遠の0』が最優秀作品賞を受賞しているので、日本アカデミー賞が政治的にどちらかの方向に極端に傾いているという訳でもないのだろう。

www.hokkaido-np.co.jp

本作は映画公開時期にもシネコンが翌週の公開スケジュールを出す前に「『新聞記者』の来週の上映スケジュールがない!これは政府による圧力で打ち切りになったんだ!」とか陰謀論を唱え出す者や保守系のTwitterアカウントが名前の前に「内調」と明記したりする者が現れるなど良くも悪くも話題になっていた。その話題は政治的スタンスが左右ハッキリしている者同士で起きていた感も否めないが、本作に「何かそういう力」があるのは間違いないのだろう。ただ製作側が「日本人女優がオファーを断ったという話はまったくの嘘」と明言しているにも関わらず、未だに「日本人女優は政権の圧力を恐れてオファーを断った」というデマが事実のように広がっているのは残念だ。

 

 

  • 最後に…

本作のラストは主人公の官僚が圧力に屈し、一緒に政権の闇を暴こうとした新聞記者に「ゴメン」と口にする。しかしその声に音はない。これは製作陣が「声を上げようとした者の声が圧力によって奪われた」という演出意図のもと「声をなくした」のではないかと感じる。現在進行形の問題を扱っている以上、安易な物語的結末を描くより、こういう形で物語の幕を閉じたのは正解だろう。ただ個人的にはこの映画自体から何となく「批判意見を許さない」ような空気を感じてしまう。そう感じた一番の理由は公開後にプロデューサーが本作の批判意見を「ネトウヨに叩かれた」とザックリまとめていたからだ。この空気は本作を熱心に称賛する者からも感じていたが、製作側も同じように批判意見を封じるような、「政治的スタンスは一致しているが、映画としてダメ」という意見を無視するような発言をするのは如何なものか… 「何だかんだで日本アカデミー賞みたいな権威ある賞が好きな人が多いんだな…」と感じた年だった。

 

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  • 発売日: 2019/10/23
  • メディア: Prime Video
 
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