日大アメフト悪質タックル事件 内田前監督ら「不起訴処分」

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日大アメフト悪質タックル事件において、東京地検立川支部は当時の指導者2人とタックルをした選手を不起訴処分とした。前監督と元コーチは「嫌疑不十分」、選手は「起訴猶予」にしたことが明らかになった。

 

  • 検察「宮川選手の共犯と認めるには疑いが残る」

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東京地検立川支部は前監督と元コーチを「嫌疑不十分」とした理由を、「宮川選手の共犯と認めるには疑いが残る」としている。宮川選手は昨年5月の会見で「コーチから監督の伝言として『QBを潰せ』と指示された」「先輩からコーチの伝言として『相手QBが怪我をして秋の試合に出れなくなれば、こっちの得』という発言を聞いて『潰せ』を『怪我させろ』と認識した」などと説明していた。一方で警視庁が捜査した結果、「『潰せ』はアメフト界で一般的に『強いタックル』の意味で使われており、日大アメフト部内でも共通認識があった」「過去に元コーチから同様の指示をされた選手の中で、今回のような悪質な反則行為をする選手はいなかった」「元コーチから宮川選手に『怪我すれば得』と伝言を頼まれた日大部員が見つからなかった」「元コーチは反則の後にプレーを注意していた」などの理由から「指導者に傷害容疑なし」と結論付けていた。

今回の検察の捜査では警視庁の捜査結果をもとに改めて事情聴取をしたというが、「嫌疑不十分」という結論になったということは宮川選手は警視庁の捜査結果を踏まえても「指導者の指示を誤認した可能性」を否定し、一貫して「『潰せ』には『怪我をさせろ』という意味があった」と主張した可能性が高いのだろう。また「怪我すれば得」と宮川選手に伝言した部員が元コーチを庇う供述をした可能性が絶対にないというわけでもない。検察の捜査に日大部員がどのような供述をしたかは定かではないが、宮川選手が「誤解の可能性」を否定し続けている(これは自分の推測だが…)以上、指導者を「シロ」と断言するのも難しかったのだと推測される。

 

 

  • 内田前監督「社会の信頼を低下させ、深くおわび」

mainichi.jp

内田前監督は不起訴処分を受けて、日大フェニックスの前監督として日大及び学生スポーツに対する社会の信頼を低下させたことについて改めて謝罪した。また支えてくれた家族に感謝、厳正中立な立場で捜査をした警察・検察に対して敬意を述べた。一方で指示を認定した関東学連・第三者委員会の調査に対しては「警察・検察庁と同様な観点で調査を行ってくれていれば、ここまで報道が過熱することはなかったのではないか」などとコメントしている。確かに騒動当時のネット記事を調べると、連盟・第三委の認定前は以下の通り、前監督らの主張に理解を示す声も少なくなかった。

太田光「潰しに行けといったのを、彼がいろんなプレッシャーのもとにああいうプレーをしたっていう事実は、もっと記者があそこで冷静に監督の言い分も聞いてやんないと、真実からどんどん。(遠ざかる)」

「あれは物凄く特別なプレーじゃないですか。ルールの範囲内で『怪我させてもいいから』と言ったかもしれないけど、それをあのプレーを監督が指令したとはどうしても思えないし、あれをやればこうなることはわかっているわけだし」

https://sirabee.com/2018/05/27/20161636923/

木村太郎「(指導者から)QBを潰してこい、壊してこいって言われたことはよくあります。でも、それは決して(プレー終了の)ホイッスルが鳴っているのに、後ろからタックルするなんてことは、(指導者は)到底思っていない」

日大悪質タックル問題を“炎上案件”にしたメディアの責任|NEWSポストセブン

朝日新聞記者「日大の言い分も冷静に見る必要があると思う。日大の言い分で、結構当てはまる点、理解できるところも、多々ある。そういったところも自分自身、考えながら、何が本当に起こっていたのか、考えていきたい。」

朝日新聞アメフトOBが語るタックル問題 - 篠原大輔 後藤太輔 榊原一生|論座 - 朝日新聞社の言論サイト

他にも、内田前監督らの指導方法や対応については否定的でも「傷害の意図自体は本当になかったのではないか?」という視点の記事や発言は意外と多かった。

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またNHKの『クローズアップ現代』にゲスト出演した東大アメフト部のヘッドコーチも基本的に「指導者と選手の現実認識の乖離」をベースに解説していたことからも、前監督の「指示なし」を信用していた人は思いの外多かったのだと推測される。そのため内田前監督の指摘通り、関東学連・第三者委員会の杜撰な調査がなければ、あそこまで報道が過熱しなかった可能性は高い。

 

  • メディアの過熱報道も問題か

一方で警視庁捜査一課長は「加熱した報道で誤解が一人歩きしていたのではないか」と会見で記者に問いかけたという。実際捜査幹部によると「報道を見て宮川選手を守るような話をしなければならないと思った」という日大部員の声も多かったという。また東京新聞の記者は「その場の空気に流されて報じていなかったか」という自省を記事にしている。そのため関東学連・第三者委員会の調査結果が、過熱報道を煽ったというよりは過熱報道が調査に影響を与えたという見方もできるというわけだ。他にも立件見送り報道後に、メディアの過熱報道を問題視したマスコミ関係者の声も少なくなかった。

小川彩佳「背景には複雑なものがあったかもしれないが、シンプルな勧善懲悪の構図で報じてしまっていた部分があったのではないか、ということについは個人的に否定できない。視聴者の方々から寄せられた意見も、監督とコーチを糾弾する意見が圧倒的に多かったし、メディアが片棒を担いでしまった部分もあったと思う」

「元監督の指示はなかった」日大アメフト部の悪質タックル事件で、警視庁が異なる判断 世論を煽ったメディアの責任も

ただ個人的にはメディアが過熱報道した背景には、SNSの影響が大きかったように感じる。

 

 

  • 第三者委員会勝丸弁護士「調査結果に自信」

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朝日新聞によると指導者の指示を認定した第三者委員会の勝丸弁護士は調査結果に自信を持っているという。また「『嫌疑不十分』は『指示がなかった』ということを意味するものではない」ともコメントしている。確かに「嫌疑不十分」は「グレー」という判断で、「指示がなかった」という判断ではない。また「証拠が集められなかった」「指示が立証できなかった」という見方もできる判断である。ただし本事案における第三者委員会の問題は、「グレーである事案」を「クロ」と断言してしまったことにある。また「クロ」にした根拠の1つである、「反則直後に指導者がやり取りをしていた」という証言は警視庁の捜査によって以下の事実が明らかになっている。

元監督と元コーチとのやり取りを証言した部員は当時、2人の会話が聞こえるほどの近くにはおらず、「実際に聞いていない内容の証言をした。タックルした選手を守るためだった」との趣旨の話をしている

「聞いてないこと証言」 日大危険タックルで部員説明 :日本経済新聞

また第三者委員会はこの事実とは異なる日大部員の証言をもとに、「前監督は反則を見ていた」と認定していたが、警視庁は専門家に映像解析を依頼して、前監督が反則を見ていなかったことを確認した。その上、宮川選手が先輩からの伝言で聞いたと主張する「怪我すれば得」発言をその先輩にヒアリングすることなく、発言を否定する元コーチの発言だと事実認定するなどかなり杜撰な調査だったことが伺える。そのため「立証が困難だからグレーにした検察の判断」と「事実と異なることを証拠として事実認定してクロにした第三委の判断」を同列のように語るのは違和感を感じる。朝日新聞にも勝丸弁護士に取材をするなら、「指示の有無」についてではなく「映像解析の結果生じた認定のズレ」の部分についてどういう認識を持っているのかを聞いて欲しかった。

news.yahoo.co.jp

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第三者委員会の調査結果に対する検証記事は上記が参考になる。

 

  • 日大部員「前監督に感謝」の声も

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「事実とは異なる証言をした部員が出るなど、内田前監督は相当嫌われていたのか?」とも思ったが、日大部員のインタビュー記事を読むと前監督らに感謝しているという声もあった。

小田原利之(事件当時の副将)「前の監督とコーチがいなくなるって決まった時点で、僕はチームを去ろうと思いました。あの人たちが僕をつくってくれたから。育ててもらいました。端から見たら、手荒い指導だったかもしれないけど、自分の甘さを教えてくれました。体当たりで教えてくれました。新チームになって、5月(事件が起きる)まではほんとに学んだことが多かったんです」

大学アメフト - 日大アメフト部を去った副将・小田原利之、フェニックス魂で再出発の春 | 4years. #大学スポーツ

植原涼選手(4年、宮崎日大)「(内田前監督の指導で甲子園ボウルを優勝したシーズンについて)練習はキツいし、しんどかったけど、それがいい結果として出た。やっただけ結果に出た。本当にうれしかったです。それに、最後に厳しい監督やコーチがほめてくれた。感謝しまくってます」

大学アメフト - 日大・植原涼 宮崎からやってきたGKは、フェニックスのOLとして日本一になった | 4years. #大学スポーツ

日本一になるという目標のために厳しい練習こそ課されたが、甲子園ボウル優勝まで連れて行ってくれ、最後は涙して労ってくれた前監督。嫌う部員もいれば、感謝する部員もいるということなのだろう。

 

 

最後に…

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times.abema.tv

他にも色々言いたいことや紹介したい記事もあるが、個人的にこの事件を通して一番感じたことは結局「過程は結果に左右されがち」だということだ。もし悪質タックル事件が起こらず日大アメフト部が甲子園ボウルを制覇していたら、前監督らの指導法は2017年に優勝した時のように称賛されていただろう。

 

参考文献

日大タックル指示、200人聴取し映像解析で否定 刑事捜査は真逆の結論(1/3ページ) - 産経ニュース

日大前監督ら「容疑なし」 選手は傷害容疑で書類送検へ - 一般スポーツ,テニス,バスケット,ラグビー,アメフット,格闘技,陸上:朝日新聞デジタル

内田前監督ら2人に傷害容疑なし 発言や会話裏付けられず 警視庁、第三者委と反対の結論 - 毎日新聞

日本大学アメリカンフットボール部における反則行為に係る第三者委員会 (略称日大アメフト部第三者委員会)の最終報告書について | あなたとともに100万人の仲間とともに

 

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