実写版『アルキメデスの大戦』のラストでみせた山崎貴監督の怖さ

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<注意>『アルキメデスの大戦』のネタバレ

山崎貴監督最新作『アルキメデスの大戦』は数学の力で戦艦大和建造計画を止めようとする物語だ。

 

しかし劇中では史実通り大和は建造され、最期には沈没する。では本作の主人公は数学の力を使って戦艦大和建造計画を止めることはできなかったのか?実は物語内では数学の力を使って戦艦大和建造計画の欠陥を言い当て見事に計画を白紙撤回させている。

 

 

それでは何故戦艦大和は作られてしまったのか?それは主人公が戦艦大和の製造費を割り出すために自分の手で大和の製図を書き起こした、つまり自分の手で大和を一度作り出してしまったことで「戦艦大和の実物を見てみたい」と思ってしまったからだ。主人公が戦艦大和の製図を描くシーンで実写映画版では原作にはない主人公の表情が描かれる。その表情は子供がおもちゃで遊んでいる時のような楽しそうな笑顔。彼は悪魔のように美しい巨大戦艦「大和」の虜になってしまっていたのだ。


最終的に戦艦大和が建造されることになる理由は平山の「日本人は負け方を知らないから、日本が戦争に負けたという象徴として絶対に沈まないと国民が信じ込んでいる大和が沈没することで国民の目を覚まさせる」という考えに同意したからだ。当然間違った方向に進み暴走を続ける日本人に対して「残酷な現実を実際に突きつけることで戦争を止めたい」という気持ちも主人公にはあったのだろう。ただ個人的にはその理屈は「戦艦大和を見たい」という数学者としての純粋な欲望を正当化させるための言い訳だったのではないかと感じた。

 

何より数学者として美しい大和に惚れ込み、「戦争に向かう」こと理解しながらもその欲望を抑えられない気持ちはよく分かる。人はダメだと分かっていても欲望には勝てない。そしてその欲望を叶えるためには、それを成立させるような「それっぽいロジック」を後からいくらでも考えつくことができる。

 

 

そしてこの「自分が想像した美しいモノを作りたい」という欲望自体はVFXを得意とする山崎貴監督の気持ちとも重なるのではないかと思う。例えば同じく今年の夏公開される『ドラクエ』の3DCGアニメ映画を監督は「流石に難しい」と最初はオファーを断ろうとしていたらしい。でも「やり方次第では…」と思い直してオファーを受けることを決意したという。

 

つまり一度頭の中でビジョンが浮かんでしまったら作らずにはいられない。多分制作発表段階から叩かれまくった『BALLAD 名もなき恋のうた』も『SPACE BATTLESHIPヤマト』も、今冬公開予定の『ルパン三世』もリスクが大きいと理解しながらも思いついてしまったのだから作らずにはいられないというVFX監督しての美学があるのだろう。

 

そしてそれは本作の主人公の選択のラストとも重なる。勿論山崎貴監督は国民を「破滅」に誘導するような映画は作っていない。でも主人公が見せた「あの笑顔」は山崎貴監督がテレビなどで楽しそうにVFXについて語る姿と全く同じだ。

 

山崎貴監督は完全異世界を舞台にしたオリジナルのVFX超大作映画を作りたいとインタビューなどで公言しているけど、一度企画が動き出したら多分途中で「これ作ったら興行的にヤバいな…」と思っても止められないのではないかと感じる。また日本が本当に戦争に向かいそうな時に潤沢な予算を提示され、「カッコいい戦争映画を作ってくれ」と頼まれたらオファーを受けてしまうかもしれない。何故ならその時には既に魔物に取り憑かれてしまっているからだ。少し自分の憶測が入り過ぎてしまったが、自分はそういう意味でも本作は監督がこの世界や自身に感じている怖さみたいな部分を表現したかったのではないかと感じた。

 

 

人は「美しい」と思ったら、例えそれが「破滅」に向かうと理解していても止められない生き物だ。本作は「その怖さ」を見事に演出した傑作といっても過言ではないだろう。

 

<追記>

山崎貴監督は「作りたいVFX」のために、「それっぽいロジック」を作って企画を通しているのではないかと思ってる。例えば本作はインタビューの内容から「原作のメッセージに感銘した」のではなく、「戦艦大和の映画を作りたいという欲望に対して丁度いい原作を見つけた」からだったことが分かる。ただ製作理由については「今の日本の空気は戦前と重なるから、今この映画を取る必要があると思った」という「もっともらしい説明」をしている。もしかしたら監督は主人公だけでなく平山の怖さも持ってるのかもしれない。

 

<追記2>

山崎貴監督は東京オリンピック・パラリンピックの開会式・閉会式の演出を担当するが、本作の原作は東京オリンピックの新国立競技場建設計画の総工費が大幅に上がったことを原作者が疑問に感じたことが発端となっている。もしかしたら当事者として関わっている山崎貴監督としても色々思うところがあったのかも…

 

<追記3>

山崎貴監督本人に引用リツートしてくれました!

 

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