醜い顔に劣等感を抱えた彼女が最後に求めたモノは…/『累-かさね-』最終回ネタバレ

累(14) (イブニングKC)

醜い顔に劣等感を抱えた女性の悲劇を描いた『累-かさね-』の感想。

 

ストーリー

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主人公は今は亡き伝説の女優・淵透世の娘・淵累。彼女は卓越した演技力を持っていたが、顔が醜い為周囲から蔑まされていた。この物語は累が母の形見である口づけした相手と顔が入れ替わることが出来る口紅を使い、他人の顔と入れ替わり女優としての才能を発揮させながら運命に翻弄されていく物語である。

 

以下ネタバレで好きな部分を紹介!

 

累の劣等感を味わう美女たち

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他人に自身の劣等感を本当の意味で理解されることはない。特に容姿のコンプレックスは顕著だ。いくらキムタクが「鼻の形がコンプレックス」と語ろうが、いくら石原さとみが「耳たぶが薄いのがコンプレックス」と語ろうが「みんな同じ悩みを抱えている!」とはならない。

本作で醜い顔を持った累が美し顔を得た事で肯定感を得て才能を開花させていく描写と同じくらい面白いのは今までは当然のように美しい顔を持って過ごしてきた女性たちが累と顔を入れ替える事で醜い顔を体験する描写。周囲の目線を気にして外に出る事が億劫になる描写や周囲の目線に肩をすくめて過ごす事で背中に肉が付きやすくなる事を実感して自信を喪失していく描写はリアル。また心の底から「人間は中身だ」と考えている美女が累と顔を入れ替えた結果、周りからの視線を気にして自分の全てがおかしいのではないかと気になりだし、自信を失っていく絶望描写も素晴らしかった。結局他者の悩みなど自身が体験しない限りは真の意味では理解など出来ない現実を突き付けてくる。そして自分の内面を見てくれていた美女が自分の顔と交換して行動する事が耐えられなかったのを見た悲しそうな累も印象的だった。

 

自分の陰口を聞かされる累

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自分への陰口は裏で言われている訳だから基本的に自身が認識する事はない。しかし自分の顔を持つ交換相手がその場を去った時に、自分の顔についての陰口を言われた時に累は今まで自分が裏でどういう扱いを受けてきたかを改めて認識する。そして大人が他人を笑う時のやり方に直に触れる事で更に劣等感に塗れていく事になる。

 

壊れていくニナ

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累が同意の上で最初に相手と顔を交換したのは美しい顔を持つが演技はそこそこな女優ニナ。彼女は当初顔を交換して自分が名声さえ手に入ればOKというスタンスに見せていたが、実は急に眠りに落ちて長期間目が覚めなくなる「眠り姫症候群」という病に侵されていて女優が出来る状態ではなかった。ただ実家に結果が出ないなら戻って来いと親に言われていたので、自分が眠ってる間の代役として累を利用する魂胆だった。しかし累の圧倒的な演技による世間からの評価から、本当の自分との演技のギャップから一生人前で自分の顔を持って演技が出来ない状況に陥ってしまう。精神的に追い詰められながらも、最後まで親に綺麗な自分を見せて終わりたいという願望を見せたニナの最期はあまりに切なかった。

 

 

姉妹の運命

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累には己の美しさを呪う野菊という腹違いの妹がいたがお互いの存在は知らなかった。しかし同じ方向でありながら正反対の悩みを持つ彼女らはある日偶々出会い、お互いを人生で初めての心が開ける相手だと信用してお互いに裏切り合うことになる。そして彼女らはそれぞれ口紅を使い、亡き母親の亡霊に悩まされそれぞれの劣等感故に行動に移す。呪われた運命に逆らえない姉妹。

 

道具から人間になった2人

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野菊は幼少期から父親に監禁され性的虐待を受けていたが、ある日我慢の限界が来て父親を殺害して家を出る。しかし戸籍すらない彼女は行くあてもなく娼婦として生計を立てながら、累の行方を追う。その過程で彼女が利用するのは、高校教師の天ヶ崎。彼は中学時代にイジメで負った火傷や醜いルックスから教え子の女子生徒から嘲笑されており彼女らを壊す妄想をストレスのはけ口にしていた。その為彼は同じ軽蔑の目を向けてきた美女である野菊を犯す事で壊れていく過程を楽しもうとしていた。相互に利用しあい、軽蔑しあっていた2人だったが、ある日野菊が肩に火傷を負ってから天ヶ崎の態度は一変。彼女を道具として見れなくなってしまう。そして野菊もまた彼に気を許してしまい、彼女は彼を自分の運命に巻き込みたくないと、彼は彼女が運命の渦に飲み込まれ不幸になって欲しくないと願いあいながらも己の運命に逆らう事が出来ない野菊とそれを止める事が出来ないと理解する天ヶ崎の関係がまた別の人の運命の歯車を歪めていく流れが凄く良かった。

 

永久交換の真実

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顔は1回のキスごとに12時間しか入れ替えは出来ない。累の母親は彼女を守るために濁流に飛び込み命を落とした。ただ驚くべきなのは彼女の死体の顔は12時間以上経過していたにも関わらず顔が変わらなかった。その為彼女の協力者は彼女の過去の発言と照らし合わせて、顔の永久交換に成功したと判断した。しかし実は累を守るために飛び込んだのは累の母親ではなく、彼女が入れ替わっていた相手だったのだ。つまり累の母親は顔の永久交換はしていなかった。それどころか本当の自分の顔で生きていこうと決意をした矢先であり、彼女を本当に殺したのは彼女を愛した協力者が彼女と相手の顔が入れ替わっていると誤認したまま手を下していたという残酷な真実が明かされる。

 

 

本当の自分と向き合う累

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累は母親が初めて舞台と出会った場所に出向き、母親が死ぬ直前に取っていた行動を知る事で母親を愛した協力者が母親のために書きながら実現出来なかった母親と母親の出生の地の伝承をモチーフにした舞台・『暁の姫』に美しい巫女の役として臨むことを決意する。しかし累は美しい巫女ではなく、醜い鬼女に自分を重ねてしまう事で演技が出来なくなってしまう。累は母親が本当は鬼女を演じたかったという望みと同様に、初めて自分の顔を晒して女優・累として舞台に立つ決意をする。

この物語は本来累の母親の為の物語だったが、彼女の協力者は千秋楽で台本のラストを変更して累の物語へと書き換える。累はかつて希望を求めるラストをアドリブで絶望を求めるラストに勝手に変更して絶賛された過去があったが、本作では協力者との2人の意思で絶望を求めるラストから希望を求めるラストへと変更する事でかつてない程の絶賛を得る事になる。こうして彼女が累として最初の、そして最後となった舞台の幕は閉じた。

 

最後に主人公が求めたものは…

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累はかつてニナの母親に自分の正体を疑われた時に残酷な手段を使って母親を黙らせる事に成功していた。累が絶賛を受けた千秋楽を終えた日にニナの母親は累を刺し殺して「自分の娘をホンモノだと思えず狂っていった殺人犯」として捕まってしまう。しかしニナの母親の復讐は彼女を絶賛の中で殺害された女優として多くの人の中に記憶に留まる最期では到底許す事が出来なかった。彼女は口紅を使い累と顔を永久交換して、累の顔として自分を殺した。そして累は彼女の顔を持ち殺人犯として捕まり、狂った殺人犯として誰からも相手にされない余生を送る事になる。この絶望を味あわせる事がニナの母親の最大の復讐だったのだ。

累は余生を送りながら口紅の事や顔が入れ替わっている事実を誰にも言わないことを誓い、ニナから課せられた運命として全てを受け入れる決意をする。ただそれでも彼女はいくら時が経っても、否時が経つにつれて自分を奪われ忘れられる恐怖と寂しさを感じられずにはいられなくなる。累は自分が自分として舞台に立ったあの日の輝きを忘れる事なく、あれ程嫌った自分を求め続けてしまっている。彼女は醜さを武器に本当の自分を見つける事が出来た瞬間に、自身が犯した過去の過ちを精算させられる絶望を味わい続けるのだ。

 

累と羽生田の運命の行き先は…

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本作のラストは累の母親を愛した故に協力していたにも関わらず、顔を永久交換したという思い込みから自身の愛した相手を自らの手で殺してしまった羽生田がニナの母親の姿をしながら暮らしている累の家の前に現れる見開き。羽生田は精神的に追い詰められ累の幻影を追い求めている様子から、累の母親を見抜けなかったのと同様に累の事も見抜けないだろう。となると累を殺された恨みから再び求めた相手だと気付かずに彼女を殺してしまう可能性も高い。もちろん累も彼に殺されそうになってもニナから課せられた運命として全てを受け入れ黙って従うだけだろう。他人の人生を奪い一時の輝きを手に入れた2人の罪は余りにも重すぎたようだ。

 

出典:『累』/松浦だるま/講談社

 

 

最後に…

大前提にニセモノを持ってきた累は、いくら演技で評価されようがホンモノの自分とのギャップに苦しみ始めてしまう。そしてホンモノの自分を受け入れそれが評価された時、運命は彼女にニセモノを与えホンモノを求めさせる。ニセモノと絶望を求め続けた彼女がホンモノと希望を得た瞬間にニセモノと絶望が与えられる悲劇。それでも永遠に彼女を求め続ける人もいる…

物語が進むにつれて彼女の名前とタイトル同様に多くの登場人物の運命が重なり合っていくのが面白い作品でした。オススメです!

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累(1) (イブニングコミックス)

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