日大アメフト悪質タックル事件 警視庁「宮川選手が『潰せ』の意味を『怪我させろ』と誤認」 何故?

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日大アメフト悪質タックル事件において、警視庁は当時の監督・コーチによる「反則の指示はなかった」と認定して「嫌疑なし」で書類送検をしたことを発表した。一方で今回の警視庁の判断に納得がいっていない人も少なくないようだ。

 

  • 「潰せ」が捜査の争点に… 

ここで前監督らと当該選手の主張を確認したい。当該選手は試合の3日前から試合形式の実践練習から外されており元コーチに試合に出場したい旨を伝えると「『相手を1プレー目で潰せば(試合に)出してやる』と監督が言っている」などと伝えられ、「けがをさせろという意味だと認識した」と説明している。

一方で前監督は「信じていただけないと思うんですが、私からの指示ではございません」と指示を否定。また元コーチは「潰せ」と指示したことは認めたが、「けがをさせろという意図はなかった」と説明した。

ここで捜査の1つの争点となったのは、「潰せ」という言葉に「怪我をさせろ」という意味が含まれていたかどうかである。警視庁は以下のような捜査結果を検察に書類送付した。

部員や関係者ら200人以上への聞き取りで、アメフトでの「潰せ」は一般的に「激しく当たれ」「思いっきりプレーしろ」という意味で、日大でも同様の共通認識があったと確認。「けがをさせろ」との具体的な指示も確認されなかった

日大ではこれまでも日常的に使ってきたが、今回のような悪質な反則行為をする選手はいなかった

日大前監督ら「容疑なし」 選手は傷害容疑で書類送検へ - 一般スポーツ,テニス,バスケット,ラグビー,アメフット,格闘技,陸上:朝日新聞デジタル

つまり「潰せ」という言葉には「怪我をさせろ」という意味は含まれていなかった可能性が高いと判断したわけだ。しかしこの捜査結果だけをみると、日大アメフト部では日常的に「潰せ」を「強いタックル」という意味で使用していた、つまり当該選手も元コーチから日常的に「潰せ」という指示を受けてルール内のタックルをしていたことになる。そうなれば何故今回だけ「潰せ」に「怪我をさせろ」という意味が含まれていると誤認したのかという疑問が浮かび上がってくる。

 

 

  • 当該選手「潰せ」を何故誤認?

この疑問に対して、当該選手の当時の会見内容を振り返ると質疑応答の場面で記者と以下のようなやり取りをしている。 

――監督、コーチからの指示は、「つぶせ」という内容だったんでしょうか? それ一つでしょうか?

宮川:コーチから伝えられた言葉は、「つぶせ」という言葉だったと思うんですが、上級生の先輩を通じて「アラインのどこでもいいから、つぶしてこい」とは、「秋も関西学院との試合出てるので、そのラインのQBがけがをしていたら、こっちも得だろう」という言葉もあり、けがをさせるという意味で言っているんだと、僕は認識していました。

――「QBがけがをすれば、秋の試合に出られなくなるので、こちらの得だろう」と。

宮川:はい。

――その言葉を聞いて、ご自身は「つぶせ」の意味を、「けがをさせる」というふうにとらえたということでよろしいんでしょうか?

宮川:そうです。

日大加害選手の“懺悔”会見全文(下) 「秋も関学との試合あるのでQBがけがしたら得」 (1/8) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

つまり当該選手は「秋も関西学院との試合出てるので、そのラインのQBがけがをしていたら、こっちも得だろう」という上級生からの言葉を聞いたから、元コーチの「潰せ」という指示を「怪我させろ」と認識したことになる。ただし、元コーチは「『怪我させれば得』とは言ってない」とこの発言を否定している。では当該選手に「怪我すれば得」と伝えた上級生は誰からの指示で、どのような意図でこの言葉を伝えたのか?警視庁の捜査結果は以下の通りだ。

警視庁の捜査で宮川選手が「得だ」という発言を、元コーチではなく他の部員から伝聞の形で聞いていたことが判明。この部員も警視庁の聴取に対し「また聞き」だったと説明した。結局、元コーチが「得だ」という発言をした事実は確認できなかった

内田前監督ら2人に傷害容疑なし 発言や会話裏付けられず 警視庁、第三者委と反対の結論 - 毎日新聞

実は警視庁が事情聴取をした結果、元コーチから当該選手へ「怪我すれば得」という伝言をした上級生は直接伝言を頼まれたわけではなかったという。そして元コーチから伝言を頼まれた日大部員も見つからなかった。つまり当該選手は元コーチの発言ではない言葉を理由に「潰せ」を「怪我させろ」という意味だと認識したことになる。そのため元コーチの「潰せ」には、前述した捜査結果も併せて「怪我をさせろ」という意図はなかったと判断するのは妥当だと考えられる。

 

 

  • 試合時のやり取り

また当該選手の会見では、試合時の元コーチとのやり取りについて以下のように言及している。

本件で問題になっている1プレー目の反則行為の後、2プレー目が終わり、コーチに呼ばれてサイドラインに戻った時に井上コーチから「キャリアに行け」と言われましたが、さんざんクォーターバックを潰せと指示されていたので、井上コーチの発言の意味が理解できず、再びパスをしてボールを持っていない状態の相手チームのクォーターバックにタックルをして倒し、2回目の反則を取られました。

日大加害選手の“懺悔”会見全文(中) 退場後、泣いたらコーチに『優しすぎるからダメなんだ』 (1/5) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

悪質タックルの問題点はボールを投げ終わった選手、つまりボールを持っていない選手にタックルをしたから反則となった。ただ当該選手の会見によると、その問題となったタックルの後に元コーチから「キャリアに行け」と言われたとしている。この「キャリアに行け」は「ボールを持っている選手にタックルしろ」という意味。つまり元コーチは当該選手の反則を注意しているのだ。そして当該選手は「『ボールを持ってる選手にタックルしろ』という指示の意味を理解できずに再びボールを持ってない選手にタックルして2回目の反則を取られた」と説明しているのだから、元コーチの指示と逆のことをして反則を取られていることになる。

ただし当該選手は「キャリアに行け」を1回目の反則の後としているが、関東学連・第三者委員会・警視庁は映像解析の結果と元コーチの証言から「キャリアに行け」は2回目の反則の後の発言と認定している。この事実から当該選手が2回目の反則の前に元コーチから「キャリアに行け」と言われたという主張は事実誤認があり、その発言を含んだ2回目の反則理由は作り話であるということが分かる。

 

 

  • 「指示なし」理解できない

一方でここまで「指導者の指示はなかった」という証拠が揃っているにも関わらず、「反則の指示がなかったというのは理解できない」という声が多いのが現状だ。例えば第三者委員会の委員長として前監督らの指示を認定した勝丸弁護士は警視庁の捜査結果に対して以下のような見解を示している。

「上からの指示がない限りあのようなプレーはできない。指示がなかったというのは到底理解できない」

「(反則で受けた)15ヤードの罰退(陣地の後退)を知った時になぜ監督は選手に何も言わなかったのか説明がつかない」

指示なし「理解できない」日大タックル、警察結論に波紋:朝日新聞デジタル

一方で警視庁の結論は以下の通りだ。

男子選手が試合数日前に先発メンバーを外されていたことから、精神的に追い込まれて、指示を拡大解釈した

『危険タックル 監督らの指示 認められず…「起訴求めず」書類送付へ』 読売新聞 2019.02.05

まず警視庁の見解はあくまでも当該選手の拡大解釈、つまり「当該選手は本当に前監督らの指示があったと思って実行に移した」という結論であり、勝丸弁護士の1つ目の「指示がなければ、あのプレーはできない」という指摘は完全な的外れである。

「内田氏が悪質タックルを見ていたのに選手を交代させなかった」と指摘される根拠については、内田氏の視線はボールを追っており、悪質タックルを見ていなかったことを確認

日大前監督ら「容疑なし」 選手は傷害容疑で書類送検へ - 一般スポーツ,テニス,バスケット,ラグビー,アメフット,格闘技,陸上:朝日新聞デジタル 

また前監督が反則の後に選手を注意しなかった点も、前監督が反則を見ていなかったという事実(つまりよくあるレイトヒットの反則くらいだと認識していた可能性)、目の前で当該選手の悪質タックルを確認してイエローフラッグを投げた審判が当該選手を退場処分にしなかったという事実、関学側も抗議してこなかった事実、客席も特に問題にしていなかった事実等、当時の状況を踏まえれば「説明がつかない」というほどのことでもないだろう。また1回目の反則の後に審判が、2回目の反則の後には元コーチが反則を注意しているにも関わらず当該選手はその後も反則をして退場になったことを考えると、やはり選手の暴走という見方のが適切だと感じる。ただここで暴走という表現を使うと「選手が勝手に暴走したというのか!」と批判をしてくる人がいるが、前監督らの指導が暴走に繋がったという話で、別に「当該選手が勝手に暴走した」など一言も書いてない。何故「前監督の指示があった」、もしくは「当該選手が勝手にタックルした」の2択でしか物事が見れないのか不思議でならない。また「選手が傷害容疑で書類送検されてるのに、前監督らが責任を負わないのはおかしい!」という指摘もあるが、第一に「やってもいない犯罪行為」で刑事罰を受けることはあってはならないし、指導者としての責任なら騒動当時に役職を辞任している。

 

  • 最後に…

プレッシャーをかける指導法とかは日大フェニックスが一昨年27年ぶりに日本一を獲得したことから分かるように「結果を出せる」指導法である。しかし一歩間違えれば当該選手のように暴走してしまう選手も出てしまう危ない指導法でもある。これは体育会系に限らず様々な組織が結果を出すために抱えている「矛盾」であり、本事件はその矛盾に真剣に向き合うキッカケになり得たかもしれなかった。

一方で被害者側の関学含めて世間が取った対応は、日大フェニックスにプレッシャーをかけるやり方そのものだった。最後に警視庁の聞き取り捜査に応じた日大部員の証言を引用したい。

関東学連・第三者委員会の調査に応じた部員の多くが警視庁の調べに「報道を見て宮川選手のためになんとかしなくてはいけない、選手の話に沿うように証言しなくては、と思った」などと説明

警視庁「選手が前監督らの指導を誤認」日大悪質タックル:朝日新聞デジタル

何故日大部員が関東学連・第三者委員会の調査に虚偽の証言をしたかを考えれば、当時の日本全般に漂う空気がそうさせたと言っても過言ではないだろう。

 

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