「GANTZ」「アイアムアヒーロー」「いぬやしき」の佐藤信介監督作品として観た実写版「BLEACH」

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この夏ワーナー・ブラザースが放ったフランチャイズ化を見越した超大作映画「BLEACH」は興行的惨敗に喫し、同じワーナー製作の「銀魂」と入れ替える様に公開1ヶ月で上映を打ち切った劇場も多かったようだ。

当ブログで本作公開後2度に渡り本作を題材にしたエントリーを書いた。

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1つ目は原作と比較しながら、映画用のアプローチが取れていたかという視点で書いた感想。

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2つ目はワーナー・ブラザースがフランチャイズを目指して製作した人気マンガの実写映画が次々とコケて不調だと書いたエントリーだ。

今回のエントリーでは、1つ目のエントリーでは掘り下げきれなかった佐藤信介監督作品としての視点で主に「アイアムアヒーロー」と「いぬやしき」と比較しながら「BLEACH」について語り直そうと思う。

 

日常から非日常へ移る共通項

佐藤信介監督といえば代表作に二宮和也主演「GANTZ」が挙げられると思いますが、近年でも昨年は「アイアムアヒーロー」と「デスノート Light up the NEW world」、今年は「いぬやしき」と「BLEACH」と人気マンガの実写映画化が続いている監督です。

佐藤信介監督作品はこの手の人気マンガの実写映画というジャンルの中で一定の評価を得ているように感じます。そしてその理由は奥浩哉先生が指摘するように世界観のベースを現実の日本に置いている作品を手掛けているというポイントがとても大切な様に感じます。

  • GANTZ

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そして佐藤信介監督作品に共通するのが、日常から非日常へと移行していく作品だという事。例えば2011年公開の「GANTZ」なら主人公は就活に上手くいかない大学4年生が地下鉄のホームで悩んでいるといういう現実味のある描写から始まります。そしてそのホームで偶々昔仲が良かった友達と再開し、その友達とホームから落ちた酔っ払いを助けます。しかし主人公と友達はそのまま電車に轢かれてしまいます。ただ彼らは死なず謎の黒い球体のある部屋に送り込まれていました。ここまでの流れを整理すると主人公が日常から非日常へ少しずつ変化していく事で観客の興味を引っ張りながら少しずつリアリティラインを下げていき観客にこの映画独自の世界観に徐々に慣らしていく事が出来ます。その為物語に説得力が生まれ、非日常を描いているにも関わらずもしかしたら自分に起こるのではないかというリアリティまで生み出す事が出来観客に映画の世界へ入り込んで貰う事が出来ます。

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しかしこれが最初から全編ファンタジー世界だった場合、観客に映画の世界を信じさせる事のハードルは一段と上がります。例えば昨年公開された「鋼の錬金術師」ならオープニングからいきなり日本人が外国人の名前と格好をして、背景をCG合成した世界でアクションを披露します。これでは多くの人は映画独自の世界観を信じる事が出来ません。一発で映画独自の世界を信じさせるにはまだ日本映画は技術が足りない場合が多い。この点に関してはいつか別エントリーで書きたいと思います。

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原作から映画にアレンジする上手さ

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いぬやしき(1) (イブニングコミックス)

漫画を映画にそのまま置き換える事は出来ません。その為漫画を映画にする時は映画用にアレンジしたプロットに変換しなければならない。10年くらい前だとこのアレンジは基本的に原作のダイジェストで辻褄が合わない部分はオリジナル展開でカバーするプロットが多かった。ただこのやり方だと原作ファンからは映画は原作を薄めて改変した物足りないモノという感想になってしまう。しかし近年の佐藤信介監督作品は原作から映画用の軸を取り出してクライマックスの展開に繋げる1本の映画としてカタルシスを与えるプロットが多かった。

  • アイアムアヒーロー

アイアムアヒーロー

例えば2016年に公開され世界からも高い評価を受けた「アイアムアヒーロー」は、まず「35歳漫画家アシスタントがうだつの上がらない生活を送っている」→「破局寸前の彼女がZQN(ゾンビ)になって襲ってくる」→「職場に逃げると仕事仲間もZQNに!」→「外に出ると街中ZQNに溢れてパニックに!」と佐藤信介監督十八番の日常から非日常への移行を丁寧に描きます。

そして本作は「主人公が女2人を守るために一人で散弾銃を構えて100体以上のZQNを撃ち殺していく」というクライマックスのアクションを際立たせる為に、膨大な原作の中から「男としての尊厳を失いかけていた中年男性がZQNに立ち向かい女を守る事でヒーローになり男としての尊厳を取り戻す物語」という映画用のテーマを取り出して、そのテーマに沿ってクライマックスの見せ場が映画的なカタルシスを観客に与えられるようなプロットが作られてます。その為このテーマと関係ない原作のエピソードは大幅にオミットされています。もちろんそのエピソードが好きだった原作ファンは残念かもしれませんが、テーマを作ってからのオミット作業は結果的に人気マンガの実写映画にありがちなダイジェスト感はなくし、映画用のテーマを強調させる事で最終的に観客の満足度を得る事が出来ます。

アイアムアヒーロー

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  • いぬやしき

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そしてこのメソッドは今年公開された「いぬやしき」でも適応している。本作も冒頭は「家族に嫌われている中年親父の主人公がマイホームを購入」→「主人公ガンで寿命が残り少ないと分かる」→「家族に報告しようとしても誰も真面目に聞いてくれない」→「絶望を感じて公園へ」→「公園で知らない高校生と謎の爆発に巻き込まれる」→「次の朝起きたら体が機械に!」と日常から非日常の描写を丁寧に描きます。

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そして本作もクライマックスの「新宿での空中戦」が最大限に発揮出来るように原作から「父親の尊厳を失った主人公が娘を命懸けで守る事で、父親の尊厳を回復させる」を抜き出して、映画用のテーマを作り出したプロットが作られています。その為本作では原作では父親と息子のエピソードを父親と娘のエピソードに変更するなど父親と娘の関係性を大幅に強化してクライマックスのアクションを際立たせるような構成を取っています。もし原作ファンへの目配せで父親と息子のエピソードのまま実写映画化していたら、「父親と娘」のテーマ性がブレてクライマックスのカタルシスが少なくなっていたかもしれません。しかし原作から変更した事でラストのアクションシーンにしっかりと意味を持たせる事が出来た。

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近年の日本のアクション映画はアクションが物語上必然性がなく、CGやグロシーンを見せたいだけの作品が多い。しかし「アイアムアヒーロー」と「いぬやしき」は映画用にテーマを作り出しクライマックスのアクションに必然性を持たす事で一本の映画としての完成度を高めていた。これは人気マンガの実写映画化のやり方として1つの正解だと感じる。

 

以下実写版「BLEACH」のネタバレ有り

 

テーマがブレまくりだった「BLEACH」

【映画パンフレット】 BLEACH ブリーチ

「アイアムアヒーロー」「いぬやしき」と人気マンガの実写映画を手堅く成功させてきた佐藤信介監督だが、「BLEACH」に関してはテーマの軸がブレまくった残念な作品になっていた。

本作の原作から抜き出されたテーマは「母親の死を乗り越えられていない主人公が、母親の仇を倒す事で母親の死を乗り越えて成長する物語」だ。その証拠に本作はアバンタイトルで母親の謎の死を見せる事で本作のテーマを観客に明確に提示している。またオープニングクレジットで神社や仏の像を映しながら日本中で起こる怪奇現象の映像を差し込み、その後「主人公が幽霊が見えるという設定を披露→死神・ルキア登場→虚が登場」と佐藤信介監督らしく日常から非日常への移行を丁寧に見せている。ここまでなら本作も「アイアムアヒーロー」「いぬやしき」同様手堅い作品が完成しそうである。

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しかし本作は「母親の死を乗り越える主人公」というテーマと同時進行で続編のための伏線を作るために原作を改変して恋次と白哉のエピソードを展開させている。そしてこの展開により全体を通して映画のテーマがブレてしまった。さらにこの2人の登場は作品のリアリティラインまでも著しく低下させてしまった。これは「アイアムアヒーロー」「いぬやしき」とは異なり明らかな原作からの改悪だっただろう。

その為本作のクライマックスは母親の仇であるグランドフィッシャーを主人公が倒して母親の死を乗り越え成長した主人公が、その戦いの直後に白哉の圧倒的な力に敗北するという映画としてのカタルシスがまるで無い展開が来る。この展開が主人公が母親の死を乗り越えて成長したというテーマが薄まってしまう残念なプロットだったという事は言うまでもない。

   

シリーズを通して…

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ただ本作のプロダクションノートを読むと、製作陣が続編を含めてシリーズを通して「一護とルキアの友情」を描こうとしていたという事が分かる。そう考えると1作目のプロットの作りは理解出来るし、シリーズを通して観ればテーマ性が一貫したカタルシスのある物語が描けているのかもしれない。しかし興行的な失敗を喫し続編の製作が不可能になった結果から考えれば、今回の1作目はテーマ性がブレたまとまりが無い未完成の映画である事実もまた変わらない。

るろうに剣心

ワーナー製作で見事フランチャイズ化に成功した「るろうに剣心」シリーズは、原作で圧倒的な人気を誇る「京都編」から制作する案もあったという。しかし神谷道場でのエピソードを描かないと「京都編」の剣心と志々雄真実との対決は深まらないと判断したスタッフは第1作目がヒットしたら「京都編」をやろうということで話をまとめたという経緯がある。

ならば「BLEACH」も今回のような中途半端な事はせず1作目は「死神代行編」を一護の成長物語(ヒーロー誕生編)を描き、その上で続編をやるという選択肢のが良かったのでは無いか?本作が「しっかりと基盤を作ってから柱を建てないと良い建物は出来ない」という言葉の真反対を行く作品になってしまったのが残念でしかない。ちなみに昨年公開された「ジョジョの奇妙な大冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」も続編に繋がる構成ではあったが、一応「仗助がお爺ちゃんの意思を受け継ぎ杜王町を守ろうと決意する成長物語(ヒーロー誕生譚)」として一本で楽しめる作りになっていた。

そして本作の様な明らかな続編ありきな構成にしたのなら、実写版「進撃の巨人」の様に2部作連続公開の形を取るなど続編を絶対に公開するという覚悟を持って挑んで欲しかったというのが正直な所だ。

るろうに剣心

るろうに剣心

 
進撃の巨人 ATTACK ON TITAN
 

      

最後に…

佐藤信介監督作品として同じ興行的に振るっていない作品でも「いぬやしき」なら一本の映画として完結している為他人に勧めやすいですが、「BLEACH」は未完な為他人に勧め難いというデメリットもあります。

ただ佐藤信介監督としてはそろそろ現実の日本を舞台にしたアクション映画だけでなく、異世界を舞台にしたアクション映画がやりたいという気持ちが出てきたのではないかとも感じます。それでもやはり自分は1作目でしっかりと基盤を作ってから、続編で異世界アクションに挑んだ方が良かった様に感じます。

ただ今回の「BLEACH」も虚のデザインを日本伝統文化の能や祭りのお面を被ってこの世にはないものを演じる風習を参考にして、あえて顔や表情が変化しないものにする工夫やグランドフィッシャー戦を原作の墓場から駅前ロータリーに変更して映画的な見せ場を作り出すなど魅力的なシーンも多い作品です。だからこそ全体を通して観た時のまとまりの無さがよりに残念に思います。

佐藤信介監督の次回作品は人気マンガ「キングダム」の実写映画版だと噂されています。この情報の真偽は不明はですが、もしそうなら現実の日本から離れた時代と場所が舞台になります。一体どうアプローチをとっていくのか楽しみです。