実写版「鋼の錬金術師」が公開され初登場1位スタートを切ったが全国441スクリーンと日本映画の中では最大規模で封切ったにも関わらず最終興行の見込みが15-20億円とイマイチパッとしなかった。
本作のような大ヒットコミックを実写映画化した場合、予算もかかるため興行収入30億円程度は欲しい。
しかしここ最近の実写映画は30億円はおろか10億円に達しないケースも多い。
「銀魂」のようなコメディ寄りの作品や「信長協奏曲」のような連続ドラマから映画化された作品、「暗殺教室-卒業編-」のような続編作品を除けば最後に30億円を超えた作品は2015年の「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN 」まで遡ることになる。
マンガ原作実写化映画最後のヒット作「進撃の巨人」
本作は累計発行部数が5000万部を超える諫山創原作の同名原作を樋口真嗣監督により実写化した作品で興行収入は32.5億円のヒットとなった。
しかしその1ヶ月半後に公開された前後編の完結編である「エンド・オブ・ザ・ワールド」は16.8億円と前編の51.7%しか稼げなかった。
(通常1ヶ月〜1ヶ月半のスパンで公開される前後編映画の後半の興行は前半の75%前後が目安になる)
これは前半を観た観客が前編を楽しめず、後編を観るに値する作品ではないと判断したから起きたことだ。
「進撃の巨人」は最終的に2部作で49.3億円と目標の100億円の半分にも届かなかった。
ここで気になるのが本作の製作費だ。
目標には届かなくても黒字にさえなれば商品としては価値があったことになる。
調べてみると東宝の市川南取締役が本作の製作費についてインタビューで触れていたので一部引用する。
1本だと永遠の0と同じぐらいです。
2本足したら巨額です。
つまり「永遠の0」の製作費の2倍ということになる。
では「永遠の0」の製作費はいくらなのか?
これも東宝の市川南さんがインタビューで触れていたので引用する。
目標として興行収入が30億円ほどいくと予想して、だったらたまにはいいかと製作費10億円で予算が下りたんです。
<出典:東宝株式会社 取締役 映画調整、映画企画担当 市川南 氏第4回:東宝のプロデューサーはあんまりマーケティングリサーチを重視していません。 - otoCoto>
これは山崎貴監督がテレビで答えた「永遠の0」の製作費とほぼ一致します。
ここから「進撃の巨人」の製作費は約20億円だと推測することできます。
また本作の脚本に関わった映画評論家の町山智浩さんも本作の製作費についてラジオで
30億円を超える映画っていうのは年間に日本では10本あるかないかなんですよ。だから、30億を超えれば一応、大ヒットに入るんですよね。はい。というのは、まあ逆に考えると、日本では30億円以上のヒット作はほとんどあり得ない。
そうすると、いつも言っているように、制作費は興行収入の1/3を目安とするんですね。だいたい。っていうことは、まあだいたい、10億円以上の日本映画っていうのは基本的にない。
と語っていたので矛盾もありません。
(ただし本作の製作費は当初の予算をオーバーしている)
では20億円の製作費に対していくら稼げばいいのか?
町山さんは、
正しいです。製作費のだいたい3倍の興行収入で黒字になります。現在、興行収入が30億を超える大ヒット邦画は年に数本しかありません。だから上限は10億。通常のヒットは15億程度なので5億円以下が普通の映画の製作費です。@orange_0330
— 町山智浩 (@TomoMachi) 2016年6月5日
と呟いていました。
もちろん製作費が宣伝費などを入れた総製作費なのか、映画を作るためだけにかかった純粋な製作費なのかで話は違いますが、少なくとも本作は最低でも60億円は欲しかったと考えられます。
ここからも本作は批評的にも興行的にもパッとしなかった作品となってしまた経緯は分かると思います。
「進撃の巨人」以降実写映画が奮わなくなる
実は「進撃の巨人」以降のマンガ原作のアクション映画はあまりヒットしなくなっていく。
先程の市川さんや町山さんの発言から分かるように日本映画の大作の製作費は10億円前後なのだろう。
そのためマンガ原作の実写映画は興行収入30億円程度は稼がなくてはいけないことになる。
しかし最近はまるで稼げてない。
「進撃の巨人」以降のマンガ原作のアクション映画の興行収入を見て欲しい。
テラフォーマーズ
伊藤英明×三池崇史監督作品
興行収入 7.8億円
(続編を狙っていたが白紙になった)
秘密 THE TOP SECRET
生田斗真×大友啓史監督作品
興行収入 7.13億円
(目標興行収入30億円以上だった)
無限の住人
木村拓哉×三池崇史監督作品
興行収入 9.6億円
東京喰種 トーキョーグール窪田正孝×萩原健太郎監督作品
興行収入 11.0億円
(興行目標は30億円以上で続編を狙った)
ジョジョの奇妙な冒険
ダイヤモンドは砕けない 第一章
山崎賢人×三池崇史監督作品
興行収入 約9.2億円
(興行目標は今年No. 1ヒットで4部作の予定だった)
亜人
佐藤健×本広克行監督作品
興行収入 約14.2億円
(続編を狙っているが少し厳しそう…)
と冒頭に書いたように30億円はおろか10億円に達してない作品も多い。
また「進撃の巨人」後編の16.8億円にすら1本も届いていなかった。
これはあまりにも厳しい。
また続編を狙った作品も多かったが、ほとんどの作品の企画が白紙に戻っているのも悲しい限りだ。
(ちなみにシリーズ化を狙った小栗旬主演の「ルパン三世」は興行収入24.5億円のヒット作になったが製作費約10.5億円に対しては物足りなかったのか続編は未だ作られていない。)
そしてハガレンも…
冒頭で触れた通り「鋼の錬金術師」は初登場1位スタートこそきれたが、最終的に興行収入は11億円と製作費を考えればシリーズ化は難しいだろう。
来年ワーナーは実写版「BLEACH」が控えている。
もし「BLEACH」まで大コケしたら…
その時はいよいよマンガ原作の実写化ラッシュにもブレーキが踏まれることだろう。
おまけのこぼれ話
「るろうに剣心 京都大火編/伝説の最後編」は2部作で製作費30億円と発表されたが、これは宣伝費も含んでいる。
大友啓史監督はインタビューで本作のリクープラインはBlu-ray・DVDや地上波放映権などの副収入を考えたとしても70億円は欲しいと語っていた。
昨年公開して興行収入82.5億円の大ヒットになった「シン・ゴジラ」は映画自体の予算が約13.0億円に対して宣伝費は約8.9億円投下された。